護るべき存在 : 最新の投稿
ダグラス=ジェライア  (投稿時キャラデータ) nanaki 2018-11-19

開拓村から戻ったその日、百の剣亭の事情説明や、神殿への経過報告書の作成など、七面倒臭い手続きを全て終えて帰ったのはすっかり町が寝静まった頃だった。
戦闘、移動、そして細々とした処理の嵐で体は限界まで疲れ切っていたが、それでも眠ることができなかった俺は、一人居間で酒の入ったグラスを傾けていた。

―ただの蛮族退治が、ずいぶんと面倒なことになったもんだ―

そう、心の中で嘆息する。
おそらくこんな事態になるなんてことは、あの場にいた誰も考えていなかったに違いない。
俺だってそうだ。
あんな事態になるなんて事前に分かってたら、いくら生活費がヤバかろうが参加しなかったに違いない。

「まさか、冒険者になってまであんな姿を見せられるとはな」

手の中で温められた氷がからんと音をたて、テーブルの上に置かれたランプの中の安い獣脂が燃えるジジジという音がやけに大きく聞こえる。
蛮族に救いの手を差し伸べたハルーラの神官はまだ年若い男だった。
その、何かに取り憑かれたような、ひたむきに正しい物を見ようとする姿は俺には眩しくて、そして苦しかった。
若かりし頃の、己の姿を見せられているようで。

今ではこんな成りだが、若い頃はこんな俺でも信じている正義というヤツがあったし、神殿にいればそれが成せると信じて疑わなかった。
だが、そんな甘い考えはただの一回で脆くも崩れ去った。
俺は今でも忘れない。
あの炎の中、血塗れの細い手で俺の手を掴み、慣れない人間の言葉で娘の無事を俺に託した女の姿を。
……そして俺は、正義なんて大層なものを掲げるには己の手は小さすぎることを理解した。
どれだけ力をつけようが、この俺の手ですくい上げることができる物はたかが知れている。
何かを選べば、何かがこぼれ落ちるのはこの世の摂理だ。
だからこそ苦悩するし、だからこその人という不完全な存在なのだ。
そんな当たり前のことを、俺が理解するのは遅すぎた。
その結果、本当に大切な物を指の隙間から溢れさせた。

―もうあんな思いをするのはゴメンだ―

あの時、俺は誰に何と言われようと、俺の大切な…かけがえのない存在を護ると誓ったのだから。


「アイツはどうなるんだろうなぁ」

自分の中のどろどろとした感情から一旦目を背け、ハルーラの若き神官の身を思う。
『ハルーラ神殿がどのような対応をするかはわかりませんが、良くて謹慎、悪くて神官位の降格、一時剥奪というところではないかと』
元部下で今は上司になっているクソ生意気な眼鏡野郎は、そんなことを言っていたが。
……あの一種狂気とも呼べる豹変ぶりを思い出し、人知れずため息をつく。
アイツの過去に何があったのかも知らないし、知ろうとも思わないが、そうたやすく解消できる問題のようではなかった。
何より俺たちの言葉が全く届かなくなってしまうほどなのだから。
それは、蛇のようにアイツの体をがんじがらめに縛り付けている、タチの悪い”呪い”のようなモノ……そんな風に感じられた。

「アイツとまた仕事が一緒になった時、俺はどんな顔すればいいんだろうな」

考えても答えがでない、どうしようもない事がふと口をついて出た時、後ろに小さな気配が生まれた。

「おとーさん。帰ってたの?」

眠そうな目をこすりながら声をかけてきたのは、同居人で義理の娘でもあるリカントの少女だった。

「おー、ミカ。起こしちまったか、スマンな」

後ろを向きながら応えると、俺の膝の上に特等席とばかりすっぽりと収まる小さな体。
その小さな体を後ろから優しく抱きしめる。
小さい子供特有の体温の高さが、何とも言えない安心感を伝える。

「あー、おとーさんお酒くさーい。だいぶ飲んでるでしょ。……??……」

いつものように「お酒の飲み過ぎは体に悪いんだよ」
そう続けようとしていたであろう、ミカの言葉がふと不自然に止まった。
腕の中にすっぽり収まったミカがその小さな顎を上に向けながら俺の顔見ている。
その顔が少し悲しそうに歪んだ。

「おとーさん、難しい顔してる。どうしたの?……何かあった??」

眉間にシワが寄ってると、小さな指で俺の眉間をぐいぐい押してくる少女。
どうやら、自分で考えているよりも、だいぶ深いところに心が行ってしまっていたらしい。
大切な娘に心配させているようではいけない、と心の中でスイッチを入れ替える。

「そっか、難しい顔してたか……。ゴメンな、でも大丈夫だ。俺にはミカがいてくれるからな」

極力普段どおりに、少し下品なくらいの笑みを浮かべ腕の中の少女に笑いかける。
そして、ちょっと乱暴に少女の小さくて柔らかな頬に自分の頬をこすりつけた。

「きゃ、おとーさんやめてよー。ひげチクチクするー」

やめてと言いながらもちょっとうれしそうな少女の声を聞きながら、人知れず心の中で誓いを新たにした。


―そう、この身に何があっても、この腕の中にいる娘だけは護ってみせる…と―

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